Big4 FAS VALチームから外資不動産ファンド ファンドマネージャーへキャリアアップした方にインタビューを行いました。
管理者の周囲でもなかなか聞かないこの素晴らしいキャリアップをされた方は、昔から上手く行っていたかというとそうではありません。
過去には、政府系金融機関地方支店で無聊を託っていて将来への不安感を持っていた時期もあったということです。
そのような方が、政府系金融機関地方支店から外資不動産ファンドのファンドマネージャーまでどのようにして異例のキャリアアップを果たしたのか、ヒアリングをしてまいります。
特に、未経験でのM&A業界(FAS、M&A仲介会社)への転職を考えている方におかれては是非本記事をお読みいただけると幸いです。

<インタビュー日>2025年1月某日
<年齢性別>30代男性
<資格>日本証券アナリスト(CMA)
<前職>政府系金融機関東北支店→Big4 FAS VALチーム (年収1,200万円)
<現職>外資不動産ファンド (年収2,200万円)。3年間在籍中
【転職前】Big4 FAS時代
Big4 FAS入社の背景
Big4 FAS入社前の仕事(政府系金融機関東北支店時代)
政府系金融機関東北支店に配属された新入社員時代を思い出すと、今でも複雑な気持ちになります。政府系金融機関での約3年間。地域経済を支える重要な役割を担う一方で、若手社員としての戸惑いは間違いなく大きかったです。
確かに融資業務を通じて財務分析の基礎は学べました。しかし、組織の意思決定の遅さや、過度に保守的な企業文化には馴染めませんでした。
特に印象的だったのは、新しいアイデアを提案しても、前例主義の壁に阻まれることが多かったことです。「若手の意見はまだ早い」と一蹴されることが多く、徐々にモチベーションが低下していきました。
私は常々専門性を高めたいという思いを思っていたのに、来る日来る日も同じような業務の繰り返しでした。
Big4 FASの転職面接を受ける経緯
転職を決意した当初は、FASという選択肢は念頭にありませんでした。
何か専門性を高める職はないかとエージェントに尋ねました。しかし、当時の私の年齢や経歴では第二新卒となるため転職先が限られ、3社のみ提示されました。その中の1社がBig4 FAS VALチームの募集だったのです
最初は強いこだわりがありませんでしたが、偶然当該企業のコーポレートメッセージに触れ、その内容がとても腑に落ちたのでBig4 FAS VALチームを第一志望にすることにしました。
そして、エージェントからはBig4 FAS VALの選考を受けるのであれば業務を理解しておくようにと、『図解でわかる企業価値評価のすべて』を紹介してくれました。
この本との出会いは、まさに運命的でしたね。バリュエーションの世界に興味を持つきっかけになったと同時に、未経験でもFASに挑戦できる自信を与えてくれました。
逆に、これからBig4 FAS VALの転職面接を受ける人がこの内容を理解していないと、面接を受ける以前に業務理解が進んでいないということなので、かなりマズいのではと思ってしまいます。
『図解でわかる企業価値評価のすべて』はバリュエーション業務を学ぶうえで必ず読むべき本の一つに挙げられることが多い書籍です

Big4 FASへの転職に当たって利用したエージェント
転職活動では、社長含めて2名ほどの小規模転職エージェントを利用しました。
担当エージェントの方は書籍の紹介を行っていただき、本当に良い方で、スピーディーな対応と的確なアドバイスには今でも感謝しています。特に、当時は東北に住んでおり最終面接に際しては東京来る必要があり、その際は交通費/宿泊費のサポートまでしていただき、地方在住者としては非常に助かりました。
Big4 FAS時代の業務
Big4 FAS時代の詳細な業務内容
Big4 FASに入社後、バリュエーションチームに配属されました。
セクターの配属は完全に運命任せでしたが、結果的には恵まれていました。変化の速い業界で、常に新しい評価手法や考え方が求められる分野でしたね。
また、バリュエーション業務の内容は色々ありましたが、大きく以下の業務がありました。
- 取引目的バリュエーション:DCF・類似会社比較法などのバリュエーション手法を駆使して対象企業の企業価値評価を行う業務
- 会計目的バリュエーション:M&A後の取得原価の配分(PPA)における無形資産や有形資産の価値評価や、のれんや固定資産の減損会計目的での回収可能価額の算定を行う業務
- 監査サポート:他社のバリュエーションレポートをチェックする業務
業務の比率は時期によって大きく変化していましたが、上記業務を担いました。
Big4 FAS時代の出向
特筆すべきは、事業会社への1年間の出向です。
VALの専門家として評価・経験値を伸ばせることは嬉しかったのですが、一方で視野が狭くなることへの危機感もありました。その時、ちょうど社内で大手事業会社への出向が募集されはじめました。
プリンシパルサイドでM&A業務を一貫して経験できることに大きな魅力を感じ、立候補されたとのことです。前任者に依頼してレコメンドしてもらい、無事に社内選抜に合格をすることができました。
Big4 FASは事業会社や金融機関へ出向制度を設けております。その理由としては、各企業と関係を構築して、円滑に業務を行うようにするためです。
そして、この出向は会社を代表して行われるため、当然ながら経験はもとより人格的にもそれにふさわしい人物が選出されます。
この出向の決断は、後のキャリアに大きな影響を与えることになります。
また、出向先では、プリンシパルの立場でM&A案件のPreフェーズからPostフェーズまで一貫して関与することができました。これは非常に貴重な経験で、M&A業務の経験値を深めるだけでなく、自分のスキルが外部でも通用することを実感できました。
Big4 FAS時代の働き方
ワークライフバランスはあまり良くなかったです。案件が重なると深夜2-3時まで働いてタクシーで帰宅することもザラでした。
一方で、案件の山を越えると数日は一気に暇になるので、見えている山に向かって頑張れば後は楽ということがわかっており、精神的に大きな苦はなかったです。
Big4 FASで働いていて良かったこと
未経験の身でありながら、M&Aのバリュエーション業務を一から経験させていただき鍛えていただいたことはとても感謝しています。
この経験があったおかげで自分の今があり、プロフェッショナルとしての自覚も芽生えました。
また、政府系金融機関は硬直的なカルチャーでしたが、Big4 FASは皆とてもプロフェッショナル意識が強いだけでなくフラットなカルチャーで、尊敬できる上司・先輩が多かったこともモチベーションに大いに作用しました。彼らとは辞めた今でも定期的に飲みに行くなどコミュニケーションを行っています。
Big4 FASからの転職を決意した理由
FASでの充実した日々の中、徐々に変化が訪れます。転職を決意した理由は大きく2つです。
1つめは、バリュエーション業務の担当領域が、徐々に取引目的から会計目的の評価業務に偏ってしまったことです。会計目的バリュエーションは経験が求められるので中堅メンバー以上が対応することが多いのですが、その結果私の担当するバリュエーション業務のほぼ全てが会計目的バリュエーションになりました。当初は『スキルの幅が広がる』と前向きに捉えていたのですが、次第にその考えが変わっていきました」
2つめの転職理由として、当時Big4 FASが拡大をしていた補助金関連ビジネスへのアサインがあります。私のセクターは部署の方針で全員補助金ビジネスへの一定の関与を求められました。私としてはそこに強い違和感を覚えました。
そして、3つ目の理由が、労働集約型ビジネスから資本集約型ビジネスへ転職をしたくなったことです。出向の経験を通じて、アドバイザーとして激務をこなすことに疑問を覚え、ワークライフバランスの改善の観点からも、より本質的な価値創造に関わりたいという思いが強くなっていきました。
【転職中】Big4 FASから外資不動産ファンドへの転職活動
Big4 FASからの転職で利用したサービス、ツール
転職する際に利用した方法は、「リファラル」です。
すでにファンドへ転職した業界の知人にアプローチしてリファラルを依頼しました。この選択は、結果的に功を奏します。
結果的に、外資不動産ファンドで働いていた先輩より紹介をいただき、今の会社に転職をしました。
Big4 FASから転職後の年収
Big4 FAS時代の最終年度の年収は賞与込みで1,200万円程度でした。
そこから、転職後の年収は1,300万円+キャリーで、トータルではBig4 FAS時代の待遇を上回るもの満足いく内容でした。
また、外資不動産ファンドに3年間在籍し、現在の年収は2,200万円ほどと大幅なアップになりました。
【転職後】Big4 FASから外資不動産ファンドへの転職結果
Big4 FASから外資系不動産ファンドへ転職後の状況
着任から3年が経過し、新たな発見の日々が続いています。
バイサイドは、セルサイドと比べてワークライフバランスが良いと思っていました。実際には、予想以上に忙しい毎日です(苦笑)。
原因としては、外部環境の変化が業務量に大きな影響を与えています。特に原価高騰の影響で、既存案件の収支計画の見直しや、新規案件の慎重な検討が必要になっています。当初想定していた以上の稼働が必要になることもありますね。
Big4 FASから外資系不動産ファンドへ転職した感想
それでも、転職自体には後悔の念はありません。
トータルで見ると、Big4 FAS時代と比べるとワークライフバランスは改善し、また待遇自体もBig4 FASに残り続けるよりも多額の報酬を受け取っています。
また、アドバイザー時代とは違い、自分の判断や意思決定が直接的に結果に反映されるので振り回されている感がなく、非常にやりがいを感じます。
Big4 FASで得た経験と知識は外資系不動産ファンドで役に立ったか?
Big4 FAS時代の経験の有用性は着任直後から実感がありました。
ファイナンスの基本的な考え方、モデリングスキル、契約実務の知識など、これらは日々の業務で確実に活きています。特に不動産ファンド業界では、これらのスキルセットを総合的に持っている人材が意外と少なく、チームからは割と重宝してもらっています。
たとえば、投資検討時のバリュエーションモデルでは、スクラッチで作ることは少なくなりましたが既存モデルをカスタマイズする場面は頻繁にあります。その際、FASで培ったモデリングスキルが大いに役立っています。
また、Big4 FAS時代の会計目的のバリュエーション業務は正直あまり好きではありませんでしたが、その経験で得た会計基準への理解は、ファンド経理メンバーとのコミュニケーションで意外と役に立っています。
今後のキャリアビジョン
当面は現在のファンドで経験を積みたいと考えています。
一方で、ワークライフバランスの更なる改善や、マルチアセットファンドでの経験獲得のために、将来的な転職も選択肢の一つとして考えています。ただし、バイサイドの世界で活躍していきたいという軸は変わりません。
PEファンドに来る人であれば分かってもらえると思いますが、もう振り回されるアドバイザー生活には戻れません笑。
【最後に】管理者のコメント
最初は東北という地方の金融機関から最終的に外資系不動産ファンド ファンドマネージャーに至るまでのキャリアアップの道のりを見ていただきました。
Big4 FAS不動産ファンドへ転職する事例はなかなか見られないためどのようなキャリアになるのか気になるかと思いますが、実際に業務親和性が高くBig4 FASで培った経験が存分に生かせることが伝わったかと思います。
専門性を活かしながらも、新たな挑戦を続ける姿勢は、同様のキャリアを考える多くの読者にとって、貴重な参考例となるのではないでしょうか。
今後も更新をしてまいりますので、面白かったらX(Twitter)で記事をRT、もしくは管理者アカウントのフォローをよろしくお願いします。
プライバシー保護のため、インタビュイーのプライバシーにかかる部分については管理者にて一部脚色を加えさせていただいております。こちらは、インタビューの内容に影響が出ない範囲で行っております
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