Big4 FASは、独立系FASと比較した際に「セクショナリズム」、つまり分業体制が強固であることがデメリットとされることがあります。そのため、特定の部署でキャリアを積む中で、他の専門分野の経験を積む機会が限定されてしまうのです。
しかしながら、キャリアの幅を広げたいというニーズは多くの人に共通するテーマです。
そして、幸いなことにBig4 FASは確かに分業体制が強固であるものの、一方で、法規制の対象となる投資銀行と比較すると分業体制の壁は高くないことも事実です。本記事では、Big4 FASに所属する中で、別部署の業務に挑戦するための具体的な手段を4つ紹介し、それぞれのメリットとデメリットについて解説していきます。キャリアを一層充実させるための参考にしてください。
Big4 FASで他部署業務を経験することの重要性
他部署の業務を経験することは、自身の視野を広げ、スキルと価値を向上させます。他分野の知識やスキルを習得することで、特定の課題だけでなく、複雑で多面的な問題に対する解決能力が向上します。その結果、より包括的で精度の高いアドバイザリーサービスを提供することが可能となります。
さらに、キャリア形成の観点からも、多様な業務経験を積むことは、将来的なキャリアの選択肢を広げるうえで不可欠です。Big4のような高度な専門性と競争の激しい環境においては、クライアントのニーズや市場の要請に応じて柔軟かつ多角的に対応できる人材が求められます。
他部署での経験は、クライアントに提供する付加価値を強化するだけでなく、自身の市場価値やキャリアの競争優位性を確立するための決定的な要素となります。また、Big4 FASを退職後は独立も視野に入れている場合、複数業務を経験しておくことは独立後の提供サービスの幅広さに直結します。
Big4 FASで他部署の仕事をするための方法4選
Big4 FASで他部署の業務に挑戦するためには、いくつかのアプローチがあります。その中でも実現可能性の高い4つの方法を詳しく解説していきます。
1:案件単位で手を挙げる
Big4 FASで他部署の業務を経験する方法の一つが、案件単位での他部署支援を活用することです。
案件単位での他部署支援は、主に人手不足や緊急対応が必要な場面で発生します。たとえば、M&Aアドバイザリー部門が繁忙期にある際、財務デューデリジェンスチームからヒトを融通してタスクの一部をサポートすることがあります。
他部署支援の機会を得るには、自ら積極的に動くことが重要です。社内でのプロジェクト進捗状況を把握し、人手不足が予想される部署にアンテナを張ることで、適切なタイミングを見つけられるでしょう。特に、サービスラインを横断してのプロジェクトを通じて他部署のパートナー・マネージャーと懇意にしておくことで、部署横断的な情報を得ることが可能です。
無論、新人を他部署へ派遣することはその部署へ迷惑をかけることにもなるため、他部署へのサポート要員は自部署で一定の経験を積み重ねてきた人員となります(エース級に活躍すると自部署への影響も大きくなるため、塩梅は重要です)。
そのため、将来到来するであろうチャンスを見込んで自部署で経験を積み、そのような部署間での人材の融通の機会が訪れたら積極的に手を挙げてそのような案件にジョインすることが望まれます。
案件単位で手を挙げる | メリット
この方法のメリットとしては、迅速性と柔軟性です。社内の正式な異動プロセスを経る必要がないため、長期間の準備や選考を待たずに、比較的短期間で他部署の業務に関与する機会を得られます。
また、この方法は試行的な取り組みとしても適しています。たとえば、他部署の業務に関心はあるものの、完全な異動に踏み切るには不安がある場合、案件単位で短期的に関わることで、自分にその分野が適しているかを実地で確認することができます。
案件単位で手を挙げる | デメリット
一方で、デメリットとしては、他部署と自部署の業務間で優先順位の衝突や負担の分散が発生する可能性がある点です。一時的とはいえ自部署と他部署という2つの指揮系統に組み込まれるため、工数の調整が難しくなり、結果的に負担が大きくなる可能性があります。
また、短期間の関与では深い専門性を習得するまでには至らない場合が多く、業務が限定的なサポートにとどまることもあります。そのため、本格的に別部署の業務経験を得たいという思いがあるのであれば、別の手段を模索するべきでしょう。
2:社内公募制度を活用したキャリアシフト
2つ目の方法は、社内公募制度を活用する方法です。社内公募制度は、企業内で公開されるポジションや異動機会に対し、社員が自主的に応募できる仕組みです。人材の柔軟な配置を目的に設けられ、特定のプロジェクトに必要なスキルを持つ人材を募集するケースや、業務拡大に伴う増員が背景となる場合があります。
社内公募制度を利用して異動を実現するには、まず異動先となる部署や役割を徹底的に調査します。その部署の業務内容や現在の課題を理解することで、応募時に具体的な貢献計画を提案できるようになります。その上で、自分のスキルや経験を整理し、公募されているポジションの要件と照らし合わせて、どのように貢献できるかを具体化しましょう。
社内公募制度 | メリット
社内公募制度を利用する最大のメリットは、グループの正規の制度なので自身で関係者や細かい利害調整をすることなくキャリアパスの設計が可能な点です。
また、選考プロセスも他の方法と比較すると明確であるため、選考対策を行いやすいという点もメリットです
社内公募制度 | デメリット
一方で、この方法は総合的に見ると運要素が強く確実な方法ではありません。
社内公募制度は競争を伴うことが避けられません。同じポジションを希望する社員が複数いる場合、選考プロセスで自分の強みを効果的にアピールできなければ、希望が叶わない可能性もあります。
また、異動を望む部署の公募が空くかは未知数です。恒常的に外部から人員採用を行えている部署はグループ内からの人員採用を積極的に行う必要もないため、場合によっては希望する部署がずっと社内公募を行わない可能性もあります。
3:人脈と交渉を活用して異動を実現
3つ目の方法は、公式な制度に頼らず、個人的な人脈や交渉力を活用して異動を実現する方法です。特に、現場レベルでの裁量が比較的大きいBig4の文化を活かし、自分の意欲やスキルを示すことで、キャリアを能動的に切り開くことが可能です。実際に、私の知り合いの中でもこの方法を用いて異動した事例が複数あり、ありがたいことに私自身もお誘いいただいたことがあります。
この方法で異動を実現するには、信頼できる社内ネットワークの構築が必要です。日々の業務を通じて得られる他部署のパートナーとの接点を活用し、関係性を深めることが重要です。たとえば、サービスライン横断のプロジェクトや社内研修に参加することで、部門を超えた関係を形成できます。
ステップとしては、まず、異動先のパートナーから合意・内諾を得ることが重要です。その上で、現所属部署の直属のパートナーに異動希望をしっかりと伝えたうえで承諾を得ます。
異動には現部署との調整は避けられません。特に、異動がチームに与える影響や引き継ぎ計画について具体的に説明することで、スムーズな異動が実現できるでしょう。
人脈と交渉 | メリット
人脈と交渉を活用した異動の最大のメリットは、公式なプロセスに縛られることなく、自分自身のスキルや目標に合った異動を実現できる点です。これにより、個別のニーズや希望に応じてパーソナライズされたキャリア形成が可能となります。
また、直属のパートナーや異動先での信頼構築がすでに進んでいる場合、スムーズな異動も期待できます。
人脈と交渉 | デメリット
一方、この手法は公式な制度に拠らない人事異動のため、内部調整が煩雑で人的コミュニケーションに依存してしまうというリスクも伴います。特に、現部署との関係が悪化する可能性や、異動先との合意形成に時間がかかる場合が考えられます。
また、現部署でエース的な活躍をしている場合、本人のモチベーションを鑑みても現部署からすると他部署への異動を容認するデメリットが大きく、容易に異動に応じない可能性もあります。
このような事例を管理者も見てきており、そのような方達は最終的に次の方法を取りました。
4:他のBig4 FASへ転職する
4つ目の方法は、他のBig4 FASへ転職する方法です。現職での成長機会に限界を感じたり、他部署の業務に本格的に取り組みたい場合に有効です。Big4間の転職は、業界標準に基づいた業務スタイルが類似しているため、転職後の適応が迅速で、早期の成果が実現しやすいのが魅力です。
Big4各社のFAS部門には、プロジェクト管理やクライアント対応といった基本的な業務基準が共通しています。そのため、転職者にとっては環境の変化が大きすぎず、新しい組織でスムーズに業務を進めやすいメリットがあります。
一方で、各社にはそれぞれ独自の強みがあります。たとえば、あるファームがM&Aアドバイザリー業務に特化している一方で、別のファームは財務デューデリジェンス業務で顕著な実績を持つこともあります。この違いを理解し、自身のキャリア目標やスキルセットに最も合致するファームを選ぶことが重要です。
他のBig4 FASへ転職 | メリット
転職を通じて新しい環境に飛び込むことで、新しい業務内容は勿論、新しいネットワークを構築することができます。
特に、今後も将来にわたってM&Aキャリアを進めようと思うのであれば、M&A関係の知人を多く持っていることはプラスとなります。そのため、新しい業務内容を経験して自分の経験分野を広げつつ、転職先のBig4で新しいネットワークを構築し、さらなるキャリアアップを目指すことも可能となります。
加えて、Big4 FAS間で転職をする場合、基本的には前職の年収を考慮皿たものが設定されますが、場合によってはいくらか加算される可能性があります。そのため、短期的には収入面のアップも期待できます。
他のBig4 FASへ転職 | デメリット
一方で、当然のことながら新たな転職となるため、それには一定のリスクが伴います。
たとえば、新しいファームでの業務内容が期待と異なる場合や、転職により既存のネットワークを一部失う可能性も考慮しなければなりません。
また、Big4間の転職とは言え、俯瞰してみると1回の転職である事には違いありません。すでに転職をされてBig4 FASに入社されている場合、さらに転職回数が追加で1回加算されます。
これらの影響を考慮して、転職という手段を使って別業務の経験をするかは慎重に検討するべきでしょう。
まとめ
Big4 FASでキャリアを広げるために取り得る手段について、これまでに4つの方法を解説してきました。それぞれの手法には独自のメリットとデメリットがあり、個人の目標や状況に応じた選択をするべきでしょう。以下で、それぞれの方法について表でまとめました。
手段 | メリット | デメリット |
---|---|---|
案件ベースで手を挙げる | ・手続きが簡単で短期間で他部署の業務を経験できる ・緊急対応や繁忙期に迅速に参画可能 ・試行的に他部署の適性を確認できる | ・業務が一時的で深い専門性を習得しにくい ・自部署との業務間で調整負担が発生 ・短期的なサポートにとどまる場合が多い |
社内公募制度を活用する | ・キャリアパスを自主的に設計可能 ・選考対策が行いやすい | ・選考プロセスで競争が激しい場合あり ・募集時期や頻度が限られる |
人脈と交渉を活用して異動する | ・柔軟で個別ニーズに応じた異動が可能 ・関係構築が進んでいる場合、スムーズな適応が期待できる | ・内部調整が煩雑で人的コミュニケーションに依存 ・現部署との関係悪化リスク ・エース的な活躍をしている場合、異動が困難 |
他のBig4 FASへ転職する | ・新しい環境でリスタート可能 ・他部署の業務を体系的に経験できる ・新しいネットワークの構築が可能 | ・新しい環境が期待と異なる場合あり ・既存のネットワークを失う可能性あり ・転職回数が1回加算 |
Big4 FASで他部署の業務を経験する方法について、4つの実践的なアプローチを解説しました。どの方法にもメリットとデメリットがあるため、まずは自身のキャリア目標を明確にし、それに最も適した手段を選択することが重要です。
- 短期間で柔軟に挑戦したい場合→「案件ベースで手を挙げる」
- 長期的なキャリアシフトを計画している場合→「社内公募制度」
- 自分自身のネットワークと交渉力を活かせる場合→「人脈と交渉による異動」
- 現在の環境を刷新し、新しいキャリアを築きたい場合→「他のBig4 FASへの転職」
いずれの方法を選択する場合でも、必要なのは準備と行動です。自己のスキルや経験を整理し、どのように他部署や新しい環境で貢献できるかを具体的に考えることが大切です。また、変化を恐れず、自らの意志でキャリアを切り開く積極的な姿勢を持つことが、成功への近道となるでしょう。
今回紹介した方法は、ファームやチームによっては採用していない場合もございます。まずは自分の所属組織における運用状況を確認し、機会を見逃さないようにご留意ください
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