Big4 FASにおいては、バリュエーション業務は大きく3つの業務があります。
本稿では、各業務の詳細を解説したうえで、各業務の人気度やキャリア別に重視される業務などをご紹介いたします。
Big4 FASの「バリュエーション3大業務」
解説:取引目的バリュエーション業務
取引目的のバリュエーションは、文字通り、M&A取引における企業価値評価です。バリュエーションとしてよく想像される業務は「取引目的バリュエーション」に該当します。
DCF法やマルチプル法などの企業価値評価手法を用いて、対象企業の株式価値を算定します。この業務では、財務モデルの構築から、将来キャッシュフローの予測、適切な割引率の設定まで、多岐にわたるスキルが要求されます。
案件ごとに突発的なリクエストが発生したり、かと思えば案件の進捗によってバリュエーション業務が停滞することなどがあるため、スケジュールが読みづらいという側面があります。
解説:会計目的バリュエーション業務
会計目的バリュエーションには、PPA(取得原価配分)や減損テストなどが含まれます。
概要 | 詳細 |
---|---|
PPA(Purchase Price Allocation:取得原価の配分)業務 | 取得原価を、被取得企業の識別可能な資産及び負債の企業結合日時点の公正価値(時価)を基礎として、当該資産及び負債に配分する業務 |
減損テスト業務 | 企業結合等で発生するのれんの回収可能額を測定し、減損が認められる場合には、それを財務諸表に適正に反映させる業務 |
会計目的バリュエーション業務は、会計士が多いFAS業界に固有の業務で、投資銀行のようなファイナンスが主要業務の金融機関では見られない業務となります。
本業務は、会計基準に則った厳密な評価が求められ、取引目的以上に高度な専門知識が必要です。ファイナンスはもちろん、会計の深い理解も求められる点が特徴です。
また、本業務は基本的に突発対応が発生するケースが少なくスケジュールが読みやすいという点が特徴です。そのため、取引目的バリュエーション業務と比較すると、ワークライフバランスを保ちやすいというメリットがあります。
解説:監査サポート(監査支援)業務
監査サポート(監査支援)は、他のバリュエーション算定機関が対応したバリュエーション業務の内容を第三者視点でチェックする業務です。
本業務は、会計監査業務の一部であり、系列監査法人から依頼される業務となります。監査法人からすると、会計監査には詳しくともバリュエーション評価になるとどうしても門外漢になってしまうため、専門の系列機関に依頼しようとなるのです。
そのため、本業務は、Big4 FASのような監査法人系列FASに固有の業務となります(独立系FASでも一部請け負っている事例があるとは聞きますが、詳細は不明)。
他社のプラクティスを学べるという点で、監査サポート業務から得られる経験値は大いにあり、バリュエーションチームへ配属されて日が浅い新人が優先して対応する傾向にあります。具体的には、モデルを再現し算定プロセスを確認することになるため、その過程で様々な知見が得られます。
Big4 FAS バリュエーションチーム業務の人気ランキング
バリュエーション業務の人気度は組織ごと・チームごとによって異なりますが、概ね、「評価目的バリュエーション>会計目的バリュエーション>監査サポート」という順序になるかと思われます。
これは、業務の性質や難易度だけでなく、やりがいの違いも反映されております。それぞれ、以下にて解説をいたします。
人気度:取引目的バリュエーション業務
取引目的バリュエーション業務は、多くの人が想像するバリュエーション業務そのものとなるため、比較的人気度が高い業務となります。
また、M&A案件の成否に直接関わることができ、そのインパクトも傍目に分かりやすいため、特に若手からの人気を集めるのは当然かもしれません。
管理者自身、Big4 FAS入社当時はFAチームでありながらも取引目的バリュエーション業務の経験を多く積みたいと考えておりました。
人気度:会計目的バリュエーション業務
次点で、会計目的バリュエーション業務があげられます。
こちらは、取引目的バリュエーションと比較すると、イメージ想起が難しく、加えてM&A案件の成否に直接かかわる業務ではないため、若手からの人気度は劣る業務となります。
一方で、高度な会計知識が求められ、かつ会社としてのニーズも非常に強い業務であるため、たとえば会計士出身のバリュエーション業務担当者などは率先して本業務を希望する傾向にあります。
また、会計目的バリュエーション業務はスケジュールが比較的読みやすいというメリットがあるため、WLB重視のシニア層のような方々も本業務を優先して希望する方がいます。
人気度:監査サポート(監査支援)業務
監査サポート業務は、若手にとってはバリュエーションのプロセスを早期に学ぶことが可能な業務であるため、間違いなく重要な業務といえます。
一方で、率直に言って、業務自体は単調です。
というのも業務の前提から、基本的には他社のプロフェッショナルが作成したレポートを着地点とした評価業務でありそれをなぞることがメインであるため、ある意味で型化してしまっているからです。
将来キャリアにおいて役立つ業務
「将来キャリア:投資銀行、PEファンド」のケース
投資銀行やPEファンドにおいては複雑なバリュエーションスキルやモデリングスキルが役に立つため、取引目的バリュエーション業務の経験値が高いほど転職時に有利に働くと思われます。
一方で、会計目的バリュエーション業務は基本的に監査法人系列FAS固有の業務であるため、投資銀行やPEファンドへの転職を考えられる場合は、あまり評価される傾向にはありません。
実際、バリュエーションチームに所属した管理者の知人では、Big4 FAS入社当初より大手PEや投資銀行への転職を見据えて取引目的バリュエーション業務のアサインを優先して希望し、一定の経験がたまった段階で投資銀行への転職に成功した人もおりました。
「将来キャリア:独立開業」のケース
独立開業を想定される場合、会計目的バリュエーション業務が経験は大いに役に立ちます。
M&Aを行う上で、PPAや減損テストは必ず上がってくる論点であるため、M&A案件数の上昇に応じて会計目的バリュエーション業務の発注は増えてくる傾向にあります。
しかしながら、会計目的バリュエーション業務は高度な会計知識が必要で業務経験1-2年程度の若手では対応が困難であり、必然的に対応可能な人材は限られてきます。
そのため、会計目的バリュエーション業務の対応が可能である場合、起業独立後も本業務を請け負って受託でキャッシュを稼ぐことが可能となります。
最後に
Big4 FASにおけるバリュエーション業務の詳細を解説いたしました。
バリュエーションと一口に行っても、様々な業務があります。ご自身のキャリア形成を考えるうえでご参考になれば幸いです。
今後も更新をしてまいりますので、面白かったらX(Twitter)で記事をRT、もしくは管理者アカウントのフォローをよろしくお願いします。
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